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卸売業の在庫管理システム導入術|現場で磨かれた食品業界特化の実践ノウハウ

「毎月の棚卸で、どうしても帳簿在庫と実在庫が合わない」
「日々の伝票修正や、締め処理後の差異調査といった"後処理"に追われている」
「システムを導入しても、結局現場の判断や記憶頼みの作業がなくならない」

業務用酒販店や業務用食品卸の経営に携わる皆様であれば、こうした悩みに一度は直面されたことがあるのではないでしょうか。経済産業省の「DXレポート2021」によれば、中小企業の約6割がレガシーシステムの課題を抱えているとされています。利益率は決して高くないこの業界において、在庫のロスや、利益を生まない「後処理」の時間は、そのまま経営の足かせとなります。

世の中には「クラウド化」や「DX」といった言葉が溢れていますが、どんなに新しいパッケージシステムを入れても、現場の作業が変わらなければ成果は出ません。

私たちの現場で本当に必要なのは、人の記憶やカンに頼らず、「指図書(データ)」に基づいて正確に入荷・出荷を行う仕組みです。

この記事では、システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、実際に業務用酒類食品卸の現場で販売管理システムの刷新の指揮を執ってきた私の実体験に基づき、失敗しないシステム選びと導入のポイントをお伝えします。

単なる機能紹介ではありません。「システムを入れればなんとかなる」と思って失敗した私自身の苦い経験と、そこから導き出した**「指図書方式による在庫精度と粗利益の向上」、そして「自社グループでの実践に基づく定着サポート」**について共有することで、皆様の会社が次のステージへ進むための一助となれば幸いです。

目次

 

【実録】システム刷新で陥った失敗と、そこから得た「業務標準化」の教訓

 
「最新のシステムに入れ替えれば、すべて解決する」という誤解

私がかつてシステム刷新プロジェクトを担当した際、大きな失敗を経験しました。当時、クラウド移行と同時に、生産性向上を目指してシステムを入れ替えようとしていました。その際、「最新のシステムや技術を導入すれば、業務効率化が一気に進み、生産性が向上するはずだ」。そう信じて疑いませんでした。しかし、現実は違いました。

新しいシステムをテストしている段階で、不具合が続出しました。「前の画面と違うから入力が遅くなる」「この例外処理はどう入力すればいいのか分からない」といった声が殺到し、結果として個別対応が増え、かえって業務が煩雑になりました。
成果を生むのは「技術」ではなく「業務設計」である。

なぜ失敗したのか。それは、「業務のあるべき姿」を整理しないまま、システムだけを新しくしてしまったからです。
業務用酒類・食品卸の現場では、得意先ごとの細かな納品条件や、急な追加注文、単価の事後決定など、多くの「例外」が存在します。これらを現場の判断(=属人化)に任せたままシステムに乗せようとしても、システムは「例外」を許容しません。結果、システム外での手作業が増え、処理の負担が増大してしまったのです。

この失敗から私が痛感した学びは以下の通りです。
 • 成果を生むのは"最新技術"ではなく、業務設計・運用設計・定着(使われること)である
 • 販売管理システムは"業務の基準"ができて初めて成果が出る

中小企業庁の「2023年版中小企業白書」でも、IT投資の成果は「業務プロセスの見直し」と併せて行った企業で顕著に現れることが指摘されています。システムは、決めたルール(基準)を高速かつ正確に処理する道具にすぎません。まず行うべきは、ツール選定ではなく「業務の棚卸」と「標準化」だったのです。
 

在庫精度と粗利益を最大化する「指図書方式」による業務改革

 「記憶」で作業するからミスが起きる
経営層の皆様が最も頭を悩ませる「在庫差異」。帳簿上はあるはずの商品がない、あるいはその逆。これは単なる管理ミスではなく、利益そのものが漏れ出している状態です。
在庫管理の基本はシンプルです。「入り(入荷・仕入)」と「出(出荷・売上)」の差が在庫です。しかし、人間が作業をする以上、何の対策もしなければ人の作業ミスは1〜3%の確率で発生します。
特にベテラン社員ほど、「あのお客さんはいつもこの商品だから」と**記憶(経験)**で作業をしてしまいがちです。これこそが、在庫差異の最大の原因です。

「指図書方式」で現場の判断を減らす
我々のグループが長年実践し、確実な成果を上げているのが**「指図書方式」の徹底**です。
これは、現場担当者の記憶や判断を一切排除し、必ずシステムから出力されたデータ(指図書・ピッキングリスト・ハンディターミナルへの指示)に基づいて作業を行うという鉄則です。
 • 受発注: 注文を正確にシステムに入力する(またはデータ連携する)
 • 出荷指示: システムが在庫を引き当て、ピッキングリストを出力する
 • 作業: 現場はそのリスト通りに商品をピックアップする。現場の判断で物を先に動かさない

このように、システムを「業務の司令塔」として機能させることで、在庫精度は劇的に向上します。在庫が正確になれば、無駄な過剰在庫を持つ必要がなくなり、欠品による販売機会損失も防げます。つまり、「指図書方式」の実践こそが、会社の粗利益を最大化する最短ルートなのです。

「後処理」を削減し、生産性を劇的に上げるメカニズム

利益を生まない「後処理」に時間を奪われていませんか?
「指図書方式」のメリットは在庫精度向上だけではありません。最大の恩恵は、「後処理」の劇的な削減にあります。
 • 在庫が合わないための原因調査
 • 誤出荷による伝票の訂正・赤黒処理
 • 請求締め後の金額訂正
これらはすべて、売上や利益を生まない「後ろ向きな作業」です。しかし、多くの現場ではこの後処理に膨大な人件費と時間が割かれています。

システムからの指図通りに動き、作業結果(実績)をその場でデータとして確定させる運用に変えることで、これらの後処理はほぼゼロにできます。空いた時間で、営業担当は顧客への提案に集中でき、倉庫担当は整理整頓や品質管理に注力できる。これこそが、販売管理システム導入による真の生産性向上です。

業務用食品卸業界特有の課題に対応する機能

製造業とは異なる、卸売業ならではのニーズ
業務用食品卸売業は、製造業や小売業とは異なる特有の課題を抱えています。
 • 賞味期限管理: 食品という特性上、賞味期限や出荷限度日の管理が不可欠です
 • 不定貫商品の対応: 肉や魚など、重量で価格が変動する商品の管理
 • 荷姿変換: ケース単位での仕入とバラ単位での販売など、複数の単位での在庫管理
 • 空容器管理: ビールや日本酒などの容器回収・返却業務

私たちのシステムは、こうした業務用食品卸業界特有のニーズに標準機能として対応しています。単なる受注・出荷・請求・在庫管理だけでなく、発注・仕入計上・原価管理まで、業界のビジネスプロセス全体をカバーすることで、経営判断に必要な情報をリアルタイムで提供します。

私たちが「自社グループ」で運用・改善を続けている強み

 実験台は「自分たち」。だから嘘がない

世の中には多くの販売管理システムがありますが、私たちのシステムの最大の特徴は、業務用酒類食品卸である「マルト水谷グループ」自身がユーザーであり、日々このシステムで業務を行っているという点です。

私たちはシステム開発会社である前に、皆様と同じ「業務用酒類・食品卸売業」です。

「この機能は理屈では正しいが、現場では使いにくい」
「雨の日の配送ではハンディが濡れて困る」
「新人が入った時の教育コストを下げたい」

こうした現場の生の声(不満や要望)を、自分たちのシステムに即座に反映し、改善を続けています。机上の空論で作られたシステムではなく、泥臭い現場で揉まれ、磨き上げられた「生きたシステム」を提供できること。これが私たちの最大の強みであり、他社には真似できない信頼の証だと自負しています。

現場定着まで徹底伴走:マスタ移行から教育訓練まで

システムは「入れて終わり」ではなく「使いこなして始まり」
素晴らしいシステムを入れても、現場が使いこなせなければ意味がありません。しかし、多くのベンダーは「導入(インストール)」までは熱心ですが、その後の「定着」はユーザー任せになりがちです。
私たちは違います。なぜなら、現場定着の難しさを誰よりも知っているからです。

命綱である「マスタ移行」を支援
販売管理システムの移行で最も大変なのが、商品マスタや得意先マスタの整備・移行です。
「旧システムのマスタが汚れていて整理がつかない」
「JANコードがない商品がある」
「仕入先のリードタイムや得意先の取引条件がバラバラ」
といった業務用酒類・食品卸特有の悩みに寄り添い、あるべきマスタ構造の設計からデータ移行までをプロとして支援します。マスタは「法律」のようなものです。ここが曖昧だと、どんなに優れたシステムも機能しません。

現場教育・トレーニングの実施
新しい画面やハンディ端末の操作を、現場のパート・アルバイトの方々まで浸透させるには、根気強い教育が必要です。
マニュアルを渡して終わりにするのではなく、操作説明会の実施や、稼働直後の現場立ち会いなど、「現場が独り立ちして回るようになるまで」徹底的に伴走します。

よくある質問

経営層の皆様からよく寄せられる質問について、私の経験からお答えします。

Q1 : 現場の社員はITに詳しくありません。「指図書方式」に対応できるでしょうか?
A : むしろ、ITに詳しくない方や新人の方でも「指図書方式」は有効です。「誰がやっても同じ結果が出るように業務を標準化するためのサポートを、私たちが導入時にしっかり行います。ハンディターミナルの操作も、直感的で分かりやすい設計になっています。

Q2 : マスタの整理が追いついていませんが、導入できますか?
A : マスタ整理は避けて通れない道ですが、私たちにはそのノウハウがあります。何から手をつけるべきか、どのデータが必須でどれが不要か、実務目線でアドバイスと作業支援を行いますのでご安心ください。商品マスタ、得意先マスタ、仕入先マスタの構築から、個人情報保護方針に準拠したデータ管理まで、総合的にサポートいたします。

Q3 : パッケージシステムの機能だけで、自社の特殊な商習慣に対応できますか?
A : 私たちのシステムは、業務用酒類・食品卸特有の「受注処理」「配送管理」「発注」「入荷」「不定貫」「荷姿変換」「賞味期限管理」「リベート」「空容器管理」などを標準機能として網羅しています。その上で、貴社独自の強みに関わる部分は、運用でのカバーやカスタマイズを含めて最適な解を提案します。クラウド型のため、柔軟な対応が可能です。

Q4 : 在庫差異が減らないのはシステムの問題ですか?
A : 多くの場合、システムそのものではなく「運用ルール」と「入力のタイミング」に問題があります。「データに基づいてモノを動かす」という原則が守られていないケースが大半です。システム導入を機に、これらの業務ルールを再構築することで差異は必ず減らせます。棚卸の精度も飛躍的に向上します。

Q5 :  導入後のサポート体制はどうなっていますか? 
A : 業務用酒類・食品卸の業務は24時間365日止まりません。トラブル発生時に迅速に対応できる体制があるかを確認してください。弊社では、業界事情を熟知したスタッフがサポートを行い、単なる操作説明だけでなく、業務運用の相談にも対応しています。RPA(ロボットプロセスオートメーション)による自動化提案など、継続的な業務改善も支援します。 
 

【まとめ】システムは「魔法の杖」ではなく「業務の基準」を守る道具

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ここまでお伝えしてきた通り、販売管理システムを入れたからといって、魔法のようにすべての課題が解決するわけではありません。
しかし、「業務のあるべき姿」を描き、社内の基準を統一し、その基準を守るためのツールとして適切なシステムを導入すれば、会社は確実に変わります。
 • 在庫差異がなくなり、無駄な仕入が減ることで粗利益が残る
 • 差異調査や伝票訂正などの「後処理」が消滅し、生産性が向上する
 • 正確な数字がリアルタイムで見えるようになり、経営判断が早くなる

私自身、失敗と成功の両方を経験し、自社グループで日々改善を続けているからこそ、自信を持って言えます。システムは、貴社のポテンシャルを最大限に引き出すための強力なパートナーになり得ます。

貴社の「業務の悩み」、私たちに聞かせてください

「今のシステムが古くて限界がきている」
「在庫管理をなんとかしたいが、どこから手をつけていいか分からない」
「食品卸の実務を知っている相手に相談したい」
もし、このようなお悩みをお持ちであれば、ぜひ一度私たちにお話をお聞かせください。
私たちはただシステムを売るだけのベンダーではありません。同じ食品卸業界で生きる仲間として、「マスタ整備」から「現場定着」まで、泥臭いプロセスを一緒に乗り越える覚悟を持っています。

あなたの会社が抱える課題は、きっと私たちが現場で経験し、乗り越えてきた課題と同じはずです。まずは30分の無料相談で、貴社の受注・出荷・請求・在庫の"いま"をお聞かせください。システムありきではなく、課題解決の道筋を一緒に考えさせていただきます。

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【この記事の執筆者】
梶田典宏 株式会社インサイトリード 代表取締役社長
<経歴> システム開発会社でシステムエンジニアとして従事後、2015年に業務用酒類食品卸の株式会社マルト水谷に入社。基幹システム(販売管理システム「Mach GROA)のクラウド移行プロジェクトを主導。コロナ禍では新規事業部で飲食店向けDX支援(独自レジ、テイクアウト予約サービス)を立ち上げる。BI導入、オンライン受発注システムなど、複数のデジタル化プロジェクトに携わる。20236月より、グループ子会社である株式会社インサイトリードの代表取締役社長に就任。AIなどの先端技術を活用した新規事業開発にも取り組んでいる。
<読者へのメッセージ>DXは目的ではなく手段です。私自身、システム刷新で大きな失敗を経験しましたが、その失敗から『現場運用を理解した設計』の重要性を学びました。業務用卸の現場を知る者として、同じ悩みを抱える経営者の皆様に、実践的なDX推進のヒントをお届けします。」